ビリーホリデイ「奇妙な果実」(Strange Fruit:Lewis Allen 1939年)です。
アメリカ南部の黒人人種差別を歌ったもので、歌詞の内容は暗く陰惨です。この歌を解説している数々の文章を読むと、よく人種差別への告発、悲しみと怒りがあると書かれています。
しかし、確かに告発的な内容ですが、南部を中心とした黒人へのリンチ・暴行は当時のアメリカ人にとってはほとんど常識とも言えるものでした。この歌は、人種差別の蛮行を直接的に告発している以上に、多くのアメリカ人が沈黙していた事実を、聴く者にあからさまに突きつけることで、人種差別を容認している無言の人々の心に問いかけるものです。ビリーホリデイはこの歌を本当に悲しそうに、あるいは言葉を口にすることさえ苦しそうに歌っています。それが聴く者に伝わります。しかしビリーホリデイの歌声に「怒り」を感じることはありません。もしあなたが「怒り」をこの歌から感じるのであれば、それはビリーホリデイの声ではなく、あなた自身の心が感じたものです。「怒り」は負の感情で、それが広まることで次の憎しみや暴力を生み出すことになりますので、この歌から「怒り」を感じるのは大きな間違いです。
それでは、当時のアメリカ人がこの歌を聴いて何をしたかというと、まず自分自身から、そして家族や自分が属するグループで、差別的な考え方を少しずつ変えていったことが挙げられます。それが後の公民権法の成立に結びつきました。もちろんこの歌の影響だけではありません。多くの人たちの運動の成果によるものですが、国民の多くがその意義を認識することにこの歌が貢献したことは事実です。ただ、この歌が過去のものでは無いという、私たちが負っている悲しい現実もあります。
歌詞を訳してみました。そんなに難しい言葉はありませんが鑑賞の参考です。奇妙な果実(strange fruit)は木に吊るされた死体であることはすぐに分ります。the gallant southを「美しい南部」と訳していることも多いようですが、the gallant southは「勇敢なる南部」と南部に住む人々の誇りを現した一つの言葉です。マグノリア(モクレン)の花々(magnolias)はジュリア・ロバーツの映画の題名にもありますが、『The Magnolia State』ミシシッピー州のニックネームです。誇りある人たちの、美しい土地でこんなに陰惨なことが行われているという対比が言いようの無い悲しみを見事に表現しています。

Billie Holiday: Strange Fruit (Live 1939)

奇妙な果実(Strange Fruit:歌詞)

Southern trees bear strange fruit,
Blood on the leaves and blood at the root,
Black bodies swinging in the southern breeze,
Strange fruit hanging from the poplar trees.

Pastoral scene of the gallant south,
The bulging eyes and the twisted mouth,
Scent of magnolias, sweet and fresh,
Then the sudden smell of burning flesh.

Here is fruit for the crows to pluck,
For the rain to gather, for the wind to suck,
For the sun to rot, for the trees to drop,
Here is a strange and bitter crop.

奇妙な果実(Strange Fruit:訳詞)

南部の木は、奇妙な実を付ける
葉は血を流れ、根には血が滴る
黒い体は南部の風に揺れる
奇妙な果実がポプラの木々に垂れている

勇敢な南部(the gallant south)ののどかな風景、
膨らんだ眼と歪んだ口、
マグノリア(モクレン)の香りは甘くて新鮮
すると、突然に肉の焼ける臭い

カラスに啄ばまれる果実がここにある
雨に曝され、風に煽られ
日差しに腐り、木々に落ちる
奇妙で惨めな作物がここにある。

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奇妙な果実Wikipedia

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