「麦秋(むぎのあき)」(Our Daily Bread:1934 film)は、「群衆」(The Crowd:1928)と同じに当時のアメリカ社会の現実を扱った作品で、1930~1940の大恐慌(the Great Depression)時代を背景にした群像劇です。「麦秋(むぎのあき)」の邦題は、原題の「Our Daily Bread」=「私たちの日々の糧」、聖書にあるこの言葉を反映して、「麦が稔る豊かな秋の恵みへの感謝」という意味です。
名作「チャンプ」(The Champ:1931)で有名なキング・ヴィダー(King Vidor:1894–1982)はMGMに企画を持ち込みましたが、その社会主義的傾向の内容から敬遠され、私財を使って製作・監督し、この映画を完成させました。余談ですが、キング・ヴィダーは「オズの魔法使い」のカンザスの名シーン(The Wizard of Oz :1939-Kansas scenes only)や、1956年のオードリー・ヘップバーン主演の大作「戦争と平和」(War and Peace)などの監督と言ったほうが馴染み分りやすいでしょうか。
映画の内容は、大恐慌時代に失業した人たちと土地を失った農民たちなどによるコミュニティによる農場を巡る物語で、キング・ヴィダーは雑誌記事で、この共同体システムによる自給自足農業のことを知り映画化しました。
失業中のジョン・シムズとメアリーの夫婦が、叔父から住むために紹介された荒れ果てた農場を、同じような苦しい境遇にあり、また農場経営の技術を持った人たちを集めて、コミュニティを作るというアイディアを実現させようとする物語です。主人公のトムは優秀なヒーローではありません。ごく普通にいる誘惑に弱く、意思も弱い人間です。ジョンを演じたトム・キーン(Tom Keene)の演技も凡庸で、彼を取り巻くクリス役のジョン・クォーレン(John Qualen)やルーイ役のアディソン・リチャーズ(Addison Richards)のほうが魅力的な人物像です。しかし、それが反ってトムという人物がどこにでもいる人間だという印象を与えます。
キング・ヴィダーが描きたかったのは、苦しいときにはコミュニティの仲間たちと共に力を合わせることで乗り切ろうというメッセージであり、民衆の中に多くのヒーローがいて、それは誰でも成り得るということです。
キング・ヴィダーが私財を投じてまで、当時の大恐慌時代に伝えたかったメッセージは、現代の娯楽的映画が多い時代から見れば、ありきたりの物語と感じる人もいるかと思いますが、しかし、その社会的背景を考えれば、彼の映画人としての誠実さが分ると思います。彼もまた自らの分野で社会に貢献したいと望んだ人なのです。

Our Daily Bread (1934 film):Wikipedia
King Vidor:Wikipedia

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