Mr. Tambourine Man

「ミスター・タンブリン・マン」(Mr. Tambourine Man)はアルバム「ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム」(Bringing It All Back Home:1965)に収録されています。
「ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム」は、ボブ・ディラン(Bob Dylan)のフォーク・ソングからその後のロックへとスタイルを変えた過渡期のアルバムと位置付けられています。しかし、スタイルを変えたという表現は正しくないかもしれません。ロックがブルースやその他の既存音楽を取り入れることで発展したように、ボブ・ディランはフォーク・ソングのメッセージ性や同時代性、また自らが創り上げた詩的なイマジネーションに満ちた文学性をロックという新しい音楽の世界で表現しようと試みたと言ったほうが正しいと思います。そして、その試みは次のアルバム「追憶のハイウェイ61」(Highway 61 Revisited)で、ロック・ミュージックに豊かで詩的なイマジネーションに満ちた芸術性をもたらしました。
「ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム」は、アルバム冒頭のサブタレニアン・ホームシック・ブルース(Subterranean Homesick Blues)を始めとするSide1は、ロック的なエレクトレック・サウンドとビートの曲で、ディラン自身が「自分に近い曲」と言った「ミスター・タンブリン・マン」などの、アコースティックな曲のSide2とで構成されています。アルバムは、1965年1月にレコーディングされたものですが、いくつかの曲は既に前年に作られ、歌われていました。
「ミスター・タンブリン・マン」は、1964年半ばの作られ、6月にデモ・テープが録音されています。7月にはコンサートで歌われ、7月24日からのニューポート・フォーク・フェスティヴァルからは、ボブ・ディランのコンサートでは必ず歌われました。

1964年7月2日に公民権法(Civil Rights Act)が制定されるまで、アメリカの新しいフォーク・ソングは、プロテスト・ソングとしてのメッセージ性を強めていました。しかし、本来のフォーク・ソングは、個人的な喜びや悲しみ、社会風刺や批判など、もう少し幅の広いもので、「歌」そのものの喜びを持ったものです。ボブ・ディランは、公民権運動の盛り上がりの中で、カリスマ的な役割を果たしますが、それは彼が望んでいたものではなく、作られた、あるいは大衆がイメージ化した偶像としてのボブ・ディラン像でした。
ボブ・ディランは、自分自身の歌の世界を追求しつつ、この作られた自分のイメージの修正を試みます。1964年にリリースしたアルバム「アナザー・サイド・オブ・ボブ・ディラン」(Another Side of Bob Dylan)は、ボブ・ディランというシンガー・ソング・ライターの実像を示したものでしたが、先行したイメージを変えることは出来ませんでした。
1964年は、ボブ・ディランにとって最も憂鬱な時期だったと思います。ニューポート・フォーク・フェスティヴァルでも、依然としてプロテスト・ソングのリーダーとしてしか見ない観衆の前で歌わなければならなかったのです。「ミスター・タンブリン・マン」を歌い終わった彼は、振り向きもせずに舞台を去りました。

「ミスター・タンブリン・マン」は、その幻想的なイメージの歌詞から、よくドラッグ・ソングと言われましたが、それは間違いです。また、ジョン・ハードマン(John Herdman)は1982年の彼の著書「ボブ・ディラン:詩の研究」(Voice Without Restrant)の中で、この詩の歌詞が「基本的に音楽に調和するように作られており、・・・しかし、この感情は、知性に訴える内容に乏しく、その意味では音楽的な詩であると言えるかもしれない。」と書いていますが、これも、この詩の美しい韻や比喩的表現を重視した見方だと思います。この歌は、韻を用いた比喩的表現の中で、象徴的な言葉とイマジネーションで伝えようとした自己表現だと思います。ボブ・ディランにとっては「ミスター・タンブリン・マン」とは、(彼の言うように)自分自身の投影、シンガー・ソング・ライターとして歩むべきシンプルなライフ・スタイルの姿だと思います。この詩には、当時の彼の音楽家としての苦悩と再生が歌われているのだと思いますし、象徴的な言葉と繰り広げられたイマジネーションの中に、彼のメッセージが読み取れます。
敢えて言えば、「ミスター・タンブリン・マン」とはディランその人であり、彼の内面のビジョンが創り出した人格です。時にはピエロと思われても自分の道を進む姿であり、それは彼のアイデンティーそのものだったと思います。
そして彼は自分自身が歩むべき道として、エレクトリック・サウンドを取り入れることで、フォークとロックを融合し、より高い表現力を持った音楽を創造しました。

(変な誤解を招くような妙な訳をしたくないので歌詞だけ掲載しておきます。)
Mr. Tambourine Man : Bob Dylan

  Hey! Mr. Tambourine Man, play a song for me,
  I’m not sleepy and there is no place I’m going to.
  Hey! Mr. Tambourine Man, play a song for me,
  In the jingle jangle morning I’ll come followin’ you.

  Though I know that evenin’s empire has returned into sand,
  Vanished from my hand,
  Left me blindly here to stand but still not sleeping.
  My weariness amazes me, I’m branded on my feet,
  I have no one to meet
  And the ancient empty street’s too dead for dreaming.

  Hey! Mr. Tambourine Man, play a song for me,
  I’m not sleepy and there is no place I’m going to.
  Hey! Mr. Tambourine Man, play a song for me,
  In the jingle jangle morning I’ll come followin’ you.

  Take me on a trip upon your magic swirlin’ ship,
  My senses have been stripped, my hands can’t feel to grip,
  My toes too numb to step, wait only for my boot heels
  To be wanderin’.
  I’m ready to go anywhere, I’m ready for to fade
  Into my own parade, cast your dancing spell my way,
  I promise to go under it.

  Hey! Mr. Tambourine Man, play a song for me,
  I’m not sleepy and there is no place I’m going to.
  Hey! Mr. Tambourine Man, play a song for me,
  In the jingle jangle morning I’ll come followin’ you.

  Though you might hear laughin’, spinnin’, swingin’ madly across the sun,
  It’s not aimed at anyone, it’s just escapin’ on the run
  And but for the sky there are no fences facin’.
  And if you hear vague traces of skippin’ reels of rhyme
  To your tambourine in time, it’s just a ragged clown behind,
  I wouldn’t pay it any mind, it’s just a shadow you’re
  Seein’ that he’s chasing.

  Hey! Mr. Tambourine Man, play a song for me,
  I’m not sleepy and there is no place I’m going to.
  Hey! Mr. Tambourine Man, play a song for me,
  In the jingle jangle morning I’ll come followin’ you.

  Then take me disappearin’ through the smoke rings of my mind,
  Down the foggy ruins of time, far past the frozen leaves,
  The haunted, frightened trees, out to the windy beach,
  Far from the twisted reach of crazy sorrow.
  Yes, to dance beneath the diamond sky with one hand waving free,
  Silhouetted by the sea, circled by the circus sands,
  With all memory and fate driven deep beneath the waves,
  Let me forget about today until tomorrow.

  Hey! Mr. Tambourine Man, play a song for me,
  I’m not sleepy and there is no place I’m going to.
  Hey! Mr. Tambourine Man, play a song for me,
  In the jingle jangle morning I’ll come followin’ you.

Bob Dylan – Mr. Tambourine Man (Audio)

Mr. Tambourine Man:Wikipedia
ミスター・タンブリン・マン:Wikipedia
ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム:Wikipedia
Newport Folk Festival:Wikipedia
bobdylan.com

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