短編小説「アッシャー家の崩壊」(The Fall of the House of Usher:1839)はエドガー・アラン・ポー(Edgar Allan Poe)のゴシック風幻想小説の代表的な作品で、死の病、生きながらの埋葬と復活、精神衰弱と狂気などの彼が好んだモチーフを散りばめながら、古いヨーロッパのゴシック・ロマンを近代小説として再生したものです。
「アッシャー家の崩壊」は単なる幽霊奇談ではなく、世の中が近代化する中で取り残された階級の終焉を、「家」を象徴として描いています。この累代の血脈を象徴する「家」への執着は、歴史の浅かったアメリカよりもヨーロッパの人々に馴染み深いもので、アメリカよりもヨーロッパでこの小説が人気を得たのはこのためだと思います。そしてまた明治維新で階級と「家」の崩壊をみた日本でも受け入れられました。
エドガー・アラン・ポーの擬古調ゴシック・ロマンは自然主義などの近代小説の流れに反するもので、アメリカでは啓蒙的でも教育的でもないポーの小説は長らく評価の低いものでしたが、近代化する社会にあって科学では解き明かせない人間の心の神秘と深淵、その恐怖と美を描いた先駆的な作品として象徴派の詩人たちに愛されました。エドガー・アラン・ポーは滅びや死などの暗い世界にもある美を表現した最初の小説家で、象徴派の詩人たちはこの先見性に魅せられたと思います。封建時代から「滅びや死の美」の観念を持っていた日本人にとっては「アッシャー家の崩壊」は受け入れやすいものだとも思います。

エドガー・アラン・ポーがこの小説で描いた「人間の心の神秘と深淵、その恐怖と美」は未だに解き明かせないテーマであり、この作品に触発されるアーティストは後を絶ちません。例えば、クロード・アシル・ドビュッシーは最晩年にこの小説のオペラ化を試みながら未完に終わり、「ゴスィック・ローマン詩體」の学匠詩人、日夏耿之介は「アッシャア屋形崩るるの記」の文語訳を試みましたが、最初の断片のみを残しました。
また「アッシャー家の崩壊」はサイレント時代から映画化されていますが、単なる恐怖映画の域を脱した作品は未だに現れていないと思います。音楽でも映画でも表現できないことがエドガー・アラン・ポー作品の絶対的魅力なので仕方がないことですが。


Debussy: La chute de la Maison Usher
クロード・アシル・ドビュッシー(Claude Achille Debussy:1862-1918)が最晩年に書いた未完のオペラ「アッシャー家の崩壊」(La chute de la maison Usher)より


The Fall of the House of Usher (silent:1928)
製作、監督:Melville Webber & James S. Watson,Jr.
1928年製作の製作のアメリカ映画、表現派によるサイレントのイメージ・フィルムですが、映像表現はとても現代的です。


Short clip from the 1960 movie the House of Usher starring Vincent Price
「アッシャー家の惨劇」製作、監督:Roger Corman
1950~60年代にアメリカン・インターナショナル・ピクチャーズ(AIP)で数々の低予算の怪奇SF映画を製作したロジャー・コーマン(Roger Corman:1926-)の作品です。AIP制作のエドガー・アラン・ポーのシリーズは何と言っても名優ヴィンセント・プライス(Vincent Price:1911-1993)の素晴らしい演技にありました。彼の声を聞いただけでワクワクしたファンも多かったのではないでしょうか。

エドガー・アラン・ポー:Wikipedia
アッシャー家の崩壊:Wikipedia
eBooks@Adelaide:The Fall of the House of Usher

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です