ザ・クラッシュ(The Clash)の実力を世に知らしめたサードアルバム「ロンドン・コーリング」(London Calling:1979)です。収録曲の大半はメンバーのミック・ジョーンズ(Michael Geoffrey Jones:1955-)とジョー・ストラマー(John Graham Mellor:1952-2002)による作詞・作曲で、当時のイギリス社会が抱えていた問題を反映した政治色が全体のテーマとなっていました。
1970年代後半から始まったパンク・ムーブメントでは、パンク・バンドの多くが既存社会や体制への反発を歌にしましたが、ザ・クラッシュはその中でも音楽性、歌詞の完成度、メッセージ性において他から抜きん出ていました。ザ・クラッシュの活動期間は1976年から1985年と短いものでしたが、そのスタイルとバンドのポテンシャルが完成された形となったのがアルバム「ロンドン・コーリング」です。
アルバムの一曲めがアルバム・タイトルとなった歌が「ロンドン・コーリング」です。この歌はアルバム全体の趣旨を宣言したもので、特定の社会問題を歌ったものではありません。当時のイギリスの若者たちに、自分たちが住んでいる社会を正視することを呼びかける、一種のアジテーションとなっています。

「ロンドン・コーリング」の歌詞を意訳してみました。日本語に訳すことでニュアンスが変ってしまわないようにしました。例えば「London Calling」という言葉は、英国放送協会(The British Broadcasting Corporation:BBC)の海外向け放送における最初の呼びかけの言葉で、「こちらロンドンよりお知らせします。」といった意味ですが、「ロンドン・コーリング」の歌では、これをパロディとして使うことで「俺たちがBBCに代わって発信するぜ。」という意味と、「ロンドンから呼びかけているんだ。俺たちの言うことを聞いてくれ。」といった二重の意味があります。ですから「こちらロンドン」と訳してしまっては、なんだか分らないものになってしまいます。また、この歌詞の一部「All that phoney Beatlemania has bitten the dust」(あのビートルマニアはみんな打ち倒された:クイーンの”Another one Bite the Dust”を連想しますが、bite the dust:ほこりを噛むで『戦いに死す』『屈辱的に敗北する』)を重視して、パンクが既存の商業音楽、ロックに勝り流行していることを歌ったという意味で書いている日本版「wikipedia」の短絡的な記事も誤解を招きやすいものです。
そこで、誤解があるかもしれませんが、歌詞の解釈を書いておきます。

まず、始めに「戦争」宣言があり、戦いが始まるというアジテーションがあります。もちろんこれは本当の「戦争」ではなくて、イギリスの階級社会での戦いです。暗黒街で勝手にしている人間や、家に閉じこもっている若い奴らも出てきて現実を見ろよ。俺たちが娯楽のために歌ってと思うなよ、ビートルズのマニアなんてもういないぜ。浮かれてスウィングもしていない – 『It Don’t Mean A Thing (If It Ain’t Got That Swing):スイングしなけりゃ意味ないね』のパロディ?、警棒を振り回して威嚇する警官じゃないから。
CHORUSの部分では、気象異常、核施設の事故によるメルトダウン、作物の不作など、天災人災によってロンドン(政治・社会)が崩れてきていると警告しています。そして、自分もその中にいる。
次に、「the imitation zone」(イミテーション・ゾーン)に向けて。イミテーション・ゾーンとは偽物模倣社会、流行に追従する人たちを指していて、オリジナルの考えを持ち、正しく社会を見ている人たちに対比したもので、実在の地域を指すものではないと思います。そして、他人の模倣なんか忘れて、自分自身で考え行動しろよという意味が読み取れます。「the zombies of death」(死んだゾンビたち)は死んでゾンビになったような生活を送る者たち、これは続く言葉でドラッグによる薬物中毒者だと分ります。「nodding out」(ぶっ倒れてと訳していますが、ラリっている、麻薬で昏睡しているような状態です。)や「that one with the yellowy eyes」(黄色い目をした奴、薬物中毒で目が白濁している状態)がその言葉で、自分はもうクスリでハイになってなんかいないで、ちゃんと世の中を見てるぜ。と諭しています。
続いて、世の中で言っていること、その中には本当のことがあるから、自分で判断してやろうぜ。そして本当に世の中が変わったら微笑んでくれるかい?と歌っています。
さて、最後の「そんなに似ている」とは誰のことでしょうか?立派なことを言っている政治家?宗教家?お説教じみていることへの単なるテレ隠しでしょうか?

こうして書いてみると、何故か本当にお説教のように思えますが、この歌が書かれた1年後の1981年にロンドンのブリクストンで「ロンドンに人種暴動の熱い夏」と報道された暴動があり、イギリス全国に飛び火した事件がありました。この事件は一時は収束したものの、1985年にも同様な暴動が発生しました。また、約3年後の1983年3月にはイギリスは本当の戦争、アルゼンチンとのフォークランド紛争(Falklands Conflict/Crisis)を始めました。更に、この8月に日本の東日本大震災の影響を受けて全面停止を決めた、原子力廃止措置機関 (NDA) のもと、イギリスのセラフィールド社が管理する原子力施設「セラフィールド」 (Sellafield) による海洋汚染や再三の核漏れ事故による周辺住民らへの深刻な健康被害などが1980年代に顕在化しました。
考えてみると「ロンドン・コーリング」はこうした問題を予測していたとも思われます。そこにザ・クラッシュというバンドの優れた同時代性があったのは確かだと思います。そして、それは悲しむべきことなのかもしれませんが、今も当時とあまり変わらぬイギリスの社会状況から「ロンドン・コーリング」の同時代性も色褪せていないと思えるのです。

The Clash – London Calling (Official Video)

【London Calling 歌詞】

London calling to the underworld
Come out of the cupboard, all you boys and girls
London calling, now don’t look at us
All that phoney Beatlemania has bitten the dust
London calling, see we ain’t got no swing
‘Cept for the ring of that truncheon thing

CHORUS
The ice age is coming,the sun’s zooming in
Meltdown expected, the wheat is growing thin
Engines stop running,but I have no fear
Cause London is drowning and I, I live by the river

London calling to the imitation zone
Forget it, brother, an’ go it alone
London calling upon the zombies of death
Quit holding out-and draw another breath
London calling-and I don’t wanna shout
But when we were talking-I saw you nodding out
London calling, see we ain’t got no highs
Except for that one with the yellowy eyes

CHORUS
The ice age is coming,the sun’s zooming in
Engines stop running,the wheat is growing thin
A nuclear error,but I have no fear
Cause London is drowning and I,I live by the river

Now get this
London calling, yeah, I was there, too
An’ you know what they said? Well, some of it was true!
London calling at the top of the dial
After all this, won’t you give me a smile?
London Calling

I never felt so much a’ like
like-a, like-a…

(意訳)

ロンドン・コーリング、遠い町々へ
今、戦争が布告されました―戦いが始まります
ロンドン・コーリング、暗黒街へ
収納棚から出てきなさい、少年少女たちみんな
ロンドン・コーリング、もう俺たちを見るな
あのビートルマニアはみんな打ち倒された
ロンドン・コーリング、どうだい俺たちはもうスウィングなんてしてないぜ
あの警棒なんかを振り回す以外は

CHORUS
氷河期がやって来る、太陽が接近する
メルトダウンが予想される、小麦は痩せて育っている
エンジンは作動を停止する、でも俺は怖れない
だってロンドンは溺れつつあり、それに俺は、俺は河のそばに住んでいる

ロンドン・コーリング、イミテーション・ゾーンへ。
忘れちまえ、兄弟、独りでやりな
ロンドン・コーリング、死んだゾンビたちへ。
抵抗はやめよ―そして一息ついてみな
ロンドン・コーリング、それに俺は叫びたくはない
でも俺たちが話していた時―俺はお前がぶっ倒れてたのを見たぜ
ロンドン・コーリング、見ろよ、俺たちはハイになんかなっていないぜ
黄色い目をしたあいつ以外は

CHORUS
氷河期がやって来る、太陽が接近する
メルトダウンが予想される、小麦は痩せて育っている
核のエラーだ、でも俺は怖れない
だってロンドンは溺れつつあり、それに俺は、俺は河のそばに住んでいる

さあ分ったかい
ロンドン・コーリング、そうさ、俺もそこにいたぜ
お前は奴らが言ったことを知ってるか?そうさ、いくつかは本当のことさ!
ロンドン・コーリング、ダイヤルはトップに合わせて
これが終わった後、お前は俺に微笑んでくれるかい?
ロンドン・コーリング

そんなに似てるとなんて俺は感じないぜ
似てる、似てる……

アルバム「ロンドン・コーリング」の全曲です。パンク・ロックの最高アルバムのひとつです。

ロンドン・コーリング (“London Calling”)

01) ロンドン・コーリング (“London Calling”) – 3:19
02) 新型キャディラック (“Brand New Cadillac”) ヴィンス・テイラー – 2:08
03) ジミー・ジャズ (“Jimmy Jazz”) – 3:54
04) ヘイトフル (“Hateful”) – 2:44
05) しくじるなよ、ルーディ (“Rudie Can’t Fail”) – 3:29
06) スペイン戦争 (“Spanish Bombs”) – 3:18
07) ニューヨーク42番街 (“The Right Profile”) – 3:54
08) ロスト・イン・ザ・スーパーマーケット (“Lost in the Supermarket”) – 3:47
09) クランプダウン (“Clampdown”) – 3:49
10) ブリクストンの銃 (“The Guns of Brixton”) シムノン – 3:09
11) ロンゲム・ボヨ (“Wrong ‘Em Boyo”) C. Alphanso – 3:10
12) 死か栄光か (“Death or Glory”) – 3:54
13) コカ・コーラ (“Koka Kola”) – 1:47
14) いかさまカード師 (“The Card Cheat”) ジョーンズ、ストラマー、シムノン、ヒードン – 3:49
15) ラヴァーズ・ロック (“Lover’s Rock”) – 4:03
16) 四人の騎士 (“Four Horsemen”) – 2:55
17) アイム・ノット・ダウン (“I’m Not Down”) – 3:06
18) リヴォリューション・ロック (“Revolution Rock” / Jackie Edwards, Danny Ray) – 5:33
19) トレイン・イン・ヴェイン (“Train in Vain”) – 3:10

London on Fire 2011年8月7日
London on Fire 2011年8月7日

イギリスではこの2011年8月7日に北ロンドン、トッテナム(Tottenham)で警察官が容疑者を射殺したことに端を発した暴動がありました。1981年と1985年の暴動と違うのは、この暴動が政府に対するものではなく、警察への行動とともに、商店の掠奪など一般市民に向けられてた犯罪が行われたことで、思想や人種問題だけでなく、便乗的な犯罪行為が目立っていることです。今もイギリスには、根強い人種差別、階級差別、社会的被排除者の社会不参加、失業、ハッピー・スラッピング(Happy slapping)による治安の悪化や犯罪増加など多くの社会問題が残っています。今回の暴動を既存の枠で要約することはできませんが、こうした諸問題はザ・クラッシュが「ロンドン・コーリング」で呼びかけた若者の社会参加を拒絶・排除しており、閉塞的な状況にあります。


London on Fire: Video of Tottenham anti-police riots, bus blaze


Fresh video of London riots: Crowd street rampage

ザ・クラッシュ:Wikipedia
ロンドン・コーリング:Wikipedia

3 thoughts on “ロンドン・コーリング [歌詞和訳+解説] ザ・クラッシュ:The Clash – London Calling”

  1. なるほど。愛国者ですね。いま確認しました。

    当時騒いでいる連中は決して
    政治的道義的な動機で動いているのではない。
    職なく、気力なく、知恵も無く、努力せず、
    国や親の手当てなどで細々と暮らしている
    みじめさからの犯行であり、単なる無秩序な
    暴動なのだと。真似するなと。

    その通りでした。明確で一貫した訴えも無く、
    結局殺人、暴力、破壊、略奪行為に終わり、
    処罰され、鎮圧されたようです。

    211大震災中の原発事故。重なる激甚災害の中、
    放射能拡散を隠し、避難を拒んだ当局や東電の
    理不尽な対応に、人々は怒り、集まって抗議活動を
    展開しました。経産省前にテントを張って訴えました。

    確かに、当初は官憲は過激派制覇の構えでした。
    今も独り不当逮捕で留置場にいます。

    しかし、日本人は違っていました。
    参加する人々は、それぞれに心構えを持ち、
    礼儀をわきまえ、整然と行動しました。
    そう、
    あの大津波で何もかも失ったにもかかわらず、
    悲しみを胸に収め、現実を直視し、他人を思いやる
    姿勢を崩すことがなかったように。

    みな驚き、逆に励まされました。
    だから、彼らを救え!と言うところから始まった。

    原爆や空爆で国土を破壊し、占領政策に従順に従った日本の例を教訓に、米国はベトナム、イラン、イラク、
    アフガン…同じように策略をめぐらし、軍事介入し
    服従させようとしましたが、
    いずれも失敗し、逆に米国自身が疲弊した。
    諸葛亮孔明の異民族平定の鉄則を忘れていた。

    日本人は違ったのです。
    でも、暴動が杞憂に終わり良かったです。
    まだ、予断は許さぬが、道を作った今の彼らを称えます。
    彼らを支える熟年の賢者も少なくないようです。

    だから、若者たち。働け、努力し技能を身につけよ、と
    言い続けるあなたに大義あり。

    一人でも自分の才能に気付き、不遇を脱出出来そうに
    なった若者は少なくないのではないでしょうか?

    あなたを強く支持します。
    あなたの語りに出会った若者は運がいい。

    かく言う私もいわゆるノマドかもしれません。
    見知らぬ地で見知らぬ人々の中に入り、
    優秀な彼らと昨日まで一緒にやって来た人で
    あるかのごとく、期待され、卆なく仕事をこなし、
    必要なスタッフとして認められるために、
    粛々と問題、課題を解いて、ヤマを崩していく。
    周囲の関係者との出会いの運もあります。
    ようやく仕事や英語に慣れたころに、
    任務終了となる場合が多い。
    しかし、せつない別れの時の彼らの労わりに
    晴れ晴れとした気分で、帰国する。

    この3月。一月程度でしたが、急な求めに応じ
    極寒の北海道で、LNG供給基地建設現場で、
    200名程度の設計問題解決要員として加わりました。
    (この秋供給開始。来年はLNG発電所建設らし。)
    20年ぶりにラジオ体操をやりました。

    最近の知見では、
    電気・機械・土木・配管工事等の設計・技能者は、
    今後も需要あり。

    迷える若者を叩いて元気づけたい。
    チャンス ノマド を覗かせたい。
    そんな冷徹で慈愛ある あなたを、支持します。

    自分にどんな才能があるか、
    誰も分からないのです。

  2. ひでさんコメントありがとうございます。

    私も昨今の出来事を見聞きして、London Callingの歌詞を思い出し、この記事を書きました。歌詞が気になったひでさんも同じ感覚を覚えたのではないでしょうか?
    今、歌詞にある30年前とほとんど変らない状況で、この歌にある毒は未だに新鮮で刺激的ですね。

  3. もう何年も聴いていないのに、ふとLondon Callingの歌詞が気になって辿り着きました。個人的には、凄く嫌いな(笑)、でも、思い出しては頭の中をグルグル回る凄く不思議なメロディです。

    歌詞も凄いですね。メルトダウンに核エラー。
    予想してたのか?というくらい鋭い時代感覚。

    また違った印象になりました。

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