縁起もの歌舞伎の粋な名台詞のご紹介。

【お嬢吉三の名台詞】

月も朧に白魚の
篝(かがり)も霞む春の空
冷てえ風もほろ酔いに
心持ち良くうかうかと
浮かれ烏のただ一羽
塒(ねぐら)へけ(帰)える川端で
棹の滴か濡れ手で粟
思いがけなく手に入る百両
(御厄払いましょう。厄落とし)
おお、ほんに今夜は節分か
西の海より河の中
落ちた夜鷹は厄落とし
豆沢山(まめだくさん)に一文の
銭と違って金包み
こいつぁあ春から
縁起がいいわい

(ちょっと解説)
白魚の篝 = 春の風物詩。佃沖で篝火を炊いている白魚漁舟は広重の「絵本江戸土産 佃白魚網夜景」にも描かれています。
浮かれ烏 = 夜、浮かれ歩く人。遊客。後に出てくる夜鷹と掛けた詞。
棹の滴か濡れ手で粟 = 白魚漁の舟の棹の滴と掛けた詞。「濡れ手で粟」は濡れた手に思いがけなく粟の実が付くこと。「泡」ではありませんよ。
夜鷹 = 売買春を目的に辻に立った遊女
西の海 = 災厄を追い込むという西方にある冥界のこと。節分の厄落としとを掛けた詞
豆沢山(まめだくさん) = 節分に撒く豆と粒の小銭とを掛けた詞

歌舞伎通し狂言「三人吉三巴白浪」(さんにんきちさともえのしらなみ)

お正月には縁起物、珠には歌舞伎でも観てみましょう。
今年の国立劇場「初春 歌舞伎公演」で松本幸四郎、市川染五郎、中村福助の好配役で演じられている河竹黙阿弥=作「三人吉三巴白浪」です。同時公演の「奴凧廓春風」(やっこだこさとのはるかぜ)では松本金太郎(4代目)も出演して、高麗屋三世代共演の話題とともに、国立劇場開場45周年記念、初春にふさわしい華やいだ出し物です。
さて、今日はその「三人吉三巴白浪」。掲載した動画は歌舞伎座、平成12年の二月大歌舞伎昼の部のもので、この公演の配役も豪華でした。
お嬢吉三    七代目 尾上菊五郎
和尚吉三    十二代目 市川團十郎
おとせ      二代目 市村萬次郎
十三郎      五代目 中村翫雀
土左衛門伝吉 四代目 市川左團次
お坊吉三    二代目 中村吉右衛門

三人吉三巴白浪(廓初買:くるわのはつかい)は、本来は河竹黙阿弥(文化13年2月3日(1816年3月1日) – 明治26年(1893年)1月22日)作の七幕十四場の長編で、安政七年(1860年)正月市村座で初演されました。この頃は江戸幕府の大老、井伊直弼により専断され、近藤茂左衛門、梅田雲浜、橋本佐内や吉田松陰らが処刑された安政の大獄(安政5年(1858年)から安政6年(1859年))、同じ安政七年三月の「桜田門外の変」、その後の将軍家茂と皇女・和宮の婚儀による公武合体など幕藩体制の秩序とモラルが崩れていった時代です。こんな暗い世情でも江戸の庶民は、歌舞伎などの娯楽を楽しんでいたのですね。
原作は、梅暮里谷峨(うめぼりこくが)の洒落本「傾城買二筋道」(けいせいかいふたすじみち:寛政10年(1798)刊)を脚色して、木屋文蔵(文里)と丁字屋一重の恋物語、江戸で唯一火炙りの刑に処せられた女性、八百屋お七の逸話などを取り入れています。大川端で女装の盗賊、お嬢吉三が奪う百両は、木屋文蔵の手代十三郎が向柳原で夜鷹のおとせに会ったときに落としたもので、おとせは十三郎に届けようとする途中で襲われます。この百両と名刀「庚申丸」が人の手から手に渡る間に、因果と事件が回るという筋立てです。長篇で筋立てが煩雑であったことから、初演ではやや不評となり、その後は廓の場などを省略した四幕七場の通し狂言として演じられるようになりました。
大川端でのお嬢吉三の「月も朧に白魚の…」など、黙阿弥も名台詞が多くある歌舞伎の名作です。緻密なストーリーには陰惨な因果話のエピソードがありますが、劇全体の退廃的なムードの中で描かれる、三人の盗賊の悪の意気地、ピカレスク・ロマンとその不思議な友情、大詰「本郷火の見櫓の場」での立ち回りの華やかさなどが印象的な歌舞伎の名作です。
(受験生の方、春にはもう少し。今日はちょっと大学入試試験にも出そうなことも書いておきましたよ。)

三人吉三廓初買:Wikipedia
河竹黙阿弥:Wikipedia

Posted in ART

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です