「さくらんぼの実る頃」(Le temps des cerises)は1871年のパリコミューン(Commune de Paris)で「血の一週間」(Semaine sanglante)にも加わったジャン・バプティスト・クレマン(Jean-Baptiste Clément:1836-1903)が1866年に書いた詩に、アントワーヌ・ルナール(Antoine Renard:1825-1872)が1968年に曲を付けました。作詞の年は「血の一週間」以前ですが、ジャン・バプティスト・クレマンの生涯と1871年に彼が書いた「血の一週間」虐殺を書いた同名の詩と関連付けられて、パリコミューンの悲劇を暗喩したものとも解釈されています。確かに何気なく詩を読めば、さくらんぼの実る頃に味わった過去の失恋の痛みを叙情と内に秘めた激情を以って書いていますが、暗喩として解釈されるのは、「愛」をさくらんぼの赤い実と同じ色の血の滴に喩えていることや、「開いた傷」(これもさくらんぼの赤い色が銃創を連想させる)という言葉遣いからきています。ただ作品の成立年からすると、直接に「血の一週間」を扱ったものでないことは明らかですが、当時のジャン・バプティスト・クレマンの周囲に満ちていたであろう、パリコミューンの、明日の命も分らぬ悲壮な危機感がこの詩の根底に漂っていると思います。
でも敢えて言えば、そうした事柄を抜きにして、単に素晴らしいシャンソンとして聴くことが、この歌の最上の楽しみ方だと思います。この季節に木陰でひとり静かに聴いてみてください。きっと涼やかな気持ちになれますよ。

スタジオジブリのアニメ映画「紅の豚」でジーナが歌うシーンでは、加藤登紀子さんがフランス語で歌って、今ではこれが日本でよく知られています。フランスではシャルル・トレネなど数え切れないほどの歌手が歌っています。その中で私のお気に入りはコラ・ヴォケール(Cora Vaucaire:1918-2011)とイヴ・モンタン(Yves Montand)、ジュリエット・グレコ(Juliette Gréco)、の3人です。
「サン・ジェルマン・デプレの白い貴婦人」コラ・ヴォケールの歌では、この「さくらんぼの実る頃」とジャック・プレヴェール(Jacques Prévert)の「枯葉」(Les Feuilles mortes)、それとギヨーム・アポリネール(Guillaume Apollinaire)の「ミラボー橋」(Le Pont Mirabeau)、モーリス・ファノン(Maurice Fanon)の「スカーフ」(L’Écharpe)、「想い出のサントロペ」(Je n’irai pas à St-Tropez)などがお薦めです。機会があったら聴いてみてください。

コラ・ヴォケール:Cora Vaucaire – Le temps des cerises (1955)

イヴ・モンタン:Yves Montand – Le temps des cerises

ジュリエット・グレコ : Juliette Gréco – Le Temps des Cerises
ジュリエット・グレコが歌う「さくらんぼの実る頃」です。彼女は戦後のシャンソン界を牽引し、そのモダンなスタイルの歌唱で、ちょっと古臭かったシャンソンとの架け橋となった女性です。2016年を最後に一線から退いたのはとても残念でした。この動画は1986年の東京公演のものです。この情感表現を観れば彼女がシャンソンのミューズと言われた訳が分かると思います。

Le temps des cerises

Quand nous en serons au temps des cerises (Quand nous chanterons le temps des cerises)
Et gai rossignol et merle moqueur
Seront tous en fête
Les belles auront la folie en tête
Et les amoureux du soleil au cœur
Quand nous en serons au temps des cerises
Sifflera bien mieux le merle moqueur

Mais il est bien court le temps des cerises
Où l’on s’en va deux cueillir en rêvant
Des pendants d’oreilles
Cerises d’amour aux robes pareilles (vermeilles)
Tombant sous la feuille en gouttes de sang…
Mais il est bien court le temps des cerises
Pendants de corail qu’on cueille en rêvant !

Quand vous en serez au temps des cerises
Si vous avez peur des chagrins d’amour
Évitez les belles !
Moi qui ne crains pas les peines cruelles
Je ne vivrai pas sans souffrir un jour…
Quand vous en serez au temps des cerises
Vous aurez aussi des peines d’amour !

J’aimerai toujours le temps des cerises
C’est de ce temps-là que je garde au cœur
Une plaie ouverte !
Et Dame Fortune, en m’étant offerte
Ne pourra jamais calmer (fermer) ma douleur…
J’aimerai toujours le temps des cerises
Et le souvenir que je garde au cœur !

(意訳)

私たちはさくらんぼの季節を歌う
ナイチンゲールやマネシツグミが陽気に囀り
みんな迎えてくれる
美しい娘たちの心は狂おしく
恋人たちの心は太陽に満たされる
私たちはさくらんぼの季節を歌う
マネシツグミたちも上手に囀り始める

でも、さくらんぼの季節はとても短くて
夢の中で探す
失くした片方のイヤリング
愛はさくらんぼの実と同じ衣を纏い
滴る血となり葉の下に落ちる…
でも、さくらんぼの季節はとても短くて
夢の中で摘む珊瑚のペンダント!

あなたがさくらんぼの季節にあって
失恋を恐れているならば
美しい娘たちを避けなさい!
つらい想いを恐れていない私は
私は苦しみなくて一日として生きていけないでしょう…
あなたがさくらんぼの季節にあるとき
あなたはまた恋を失うでしょう!

私はいつもさくらんぼの季節を愛する
あの時から私は心に秘めている
開いた傷を!
そして私に運命の女神が遣わされようと
私の痛みを押し静めることはありません
私はいつもさくらんぼの季節を愛する
そして、私が心にある思い出を!

4 thoughts on “さくらんぼの実る頃 [歌詞和訳] コラ・ヴォケール / イヴ・モンタン / ジュリエット・グレコ : Cora Vaucaire / Yves Montand/Juliette Gréco- Le temps des cerises”

  1. kiyama さん

    度重なり貴重なコメントありがとうございます。
    この歌の成立年と歌詞のパリコミューンを窺わせる内容との時間差が気になっていました。4番は後年に書き足されたものだったのですね。これで漸く納得できました。

  2. この歌は当初3番までしかなかったのを,パシ・コミューンの後4番を書き足し,市街戦で犠牲になった看護婦のルイーズに捧げたらしいです。

  3. kiyama さん

    コメントありがとうございます。
    エディット・ピアフと混同していました。たしかにコラ・ボケールは吹替え出演で、この女優はメキシコの大女優マリア・フェリックスです。
    修正させていただきます。

  4. コラ・ボケールは,映画「フレンチカンカン」では吹き替えでモンマルトルの丘を歌ったはずです。映っている女優さんはコラ・ボケールではありません。

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